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by angrofille
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テオレマ(1968年 イタリア)

監督: ピエル・パオロ・パゾリーニのすごい映画。
パゾリーニは「ソドムの市」しか見た事がなくて、ただのすごい
変態の人と思って敬遠していたのですが、この「テオレマ」は最高でした。

イタリアの絵に書いたようなブルジョア家庭に、ある日「明日着く」
という電報が届く。そうして来たのは「コレクター」のテレンス・スタンプ
扮する謎のセクシーな青年。
女召し使いも息子も娘も母も父もみな彼の魅力の虜となり、関係を
結ぶ。しかし彼は電報とともに突然去って行ってしまう。
今まで気づかなかった心の空白に気づいた彼らはみなそれぞれ精神の
平衡を欠き、社会から外れていく、、
というあらすじです。

ジャックタチばりにモダンで美しい映像、誰かに狂わされて行くこころの
動き、ブルジョアの病理、テレンススタンプは神のようなんですが神に
魅了されてしまう人間の心理、すべてが分かりやすく美しい。そして
あまりに極端なのでけっこう笑えてしまう。召し使いなんか奇跡行える
ようになるんだよ!んなアホな!と素直に笑えるということは、
30前にして、やっとパゾリーニがわかるお年頃になったみたいだ。
この映画には「砂漠で全裸で叫ぶ人」という難解な映画そのものな
シーンがあるのですが、こんな状況になったら砂漠で全裸で叫ぶ気持ちが
心からよくわかるわー、って共感までして。

しかしそうしてただ一度だけのことがあまりに素晴らしかったために、
いままで当たり前だったことがすべて色褪せて見えるようになって、
人生が狂っていくのは不幸なことなんだろうか?「ただ一瞬のために
残りの全ての人生を過ごす」というのは劇画「人間交差点」でしぬほど
しつこく出てきたテーマだが(そしてその後かならず「なんて凄い人生なんだ!」
って言う)、もしかしたらそれは幸せなことなのかもしれない。

その喜びを知らなかったらぬくぬく生きていられたかもしれない、
だが奇跡としか思えない無常の喜びというものが存在して、
それを知ることができたのならその人生はより豊かなものになるのでは
ないかしらん。たとえその歓びが喪失の悲しみで後に地獄の苦しみを
生み出すとしても、知らないで生きる人生よりもきっと幸せなはずだ。
いやそうだそうに違いない。

☆4.5
テオレマ(1968年 イタリア)_b0046664_2151564.jpg

by angrofille | 2005-12-12 21:51 | 映画